この記事は、カズオ・イシグロの小説「忘れられた巨人」について、人物相関図を使って登場人物を解説しています。
この「忘れられた巨人」は、物語の展開と登場人物の関係がわかりづらくなっています。
なぜなら、「信用できない語り手」の技法を用いて書かれていることに加え、登場人物たちの記憶があいまいだからです。
人物相関図を見れば、物語の構図と人物の関係がひと目でわかります。
このブログでは、難しい文学小説を簡単に理解できるよう、人物相関図を使って解説しています。
なお、イラストはAIを使って生成したものです。
物語の主人公で、年老いた夫婦の夫。ブリトン人。
老齢による目の衰えを感じているが、仕事の早さにはまだまだ自信を持っている。
身体的な特徴に関しての描写はない。
夫婦の間には息子がいたが、顔も思い出せない。
アクセルの妻。ブリトン人。
アクセルは妻ベアトリスのことを「お姫様」(原文ではprincess)と呼ぶ。
ベアトリスの方がアクセルより目がいい。
自分たちの部屋が暗いことを恐れ、ろうそくが使えないことを嘆く。
脇腹に痛みがあることを自覚している。
アーサー王の甥の老騎士。西国出身のブリトン人。
甲冑から突き出した顔はやさしそうでしわだらけ、頭はほぼ禿げていて、白い長い毛が数本飛び出している。
今は亡きアーサー王の命じられた任務を果たすため、軍馬ホレスを連れて完全武装で旅を続けている。
甲冑はぼろぼろで錆が目立つ。
「アーサー王物語」に登場する「円卓の騎士」のガウェインである。
サクソン人の村の少年。黒い髪。
2体の鬼にさらわれるが、村に立ち寄ったウィスタンにより助け出される。
鬼にさらわれたときに、雌竜の子どもの爪で左の脇腹に傷を負ったことで、母の声が聞こえるようになる。
ウィスタンからは「若き同志」と呼ばれる。
サクソン人の戦士。
30歳くらいで、肩まで届く長い髪を結んでいる。
東の沼沢地から来た。
海からの侵略者を一人で50人以上も倒したという強者。
子どものとき、西の国の砦でブリトン軍の戦士として訓練を受けていた。
ブレヌス卿とは因縁がある。
サクソンの言葉もブリトンの言葉も話せる。
人々に恐れられている竜。
アーサー王がいた頃は強大で荒ぶる竜だったが、今はなりをひそめている。
マーリンの魔法により、吐く息は「忘却の霧」となり、人々の記憶を奪っている。
ブリトン人の王。
ガウェインがかつて仕えた主で、すでに他界している。
アーサー王の配下で魔法使い。
かつて、ガウェインらとともにクエリグに挑み、クエリグの息に健忘の魔法をかけることに成功する。
ブリトン人の領主。
昔、ウィスタンとともに西の国で戦士の訓練をしていた。
大柄で白髪の老僧。診療や薬に詳しい賢者。
鳥の生贄になったことで、あごの片側に大きな腫れがあり、ほお骨のすぐ下からあごにかけて深い溝が走り、口内と歯茎が一部見えている。
ブレヌス卿が派遣した戦士。背が高く、髪は灰色で肩まで届く長さがある。
ジョナスに付き添っている修道僧。
白髪で瘦身。
沈黙の誓約をしているため、ほとんどしゃべらない。
アクセルが住んでいた村にいた10歳か11歳の女の子。
怖いもの知らずで旺盛な好奇心をもつ。
長い髪を背中にたらし、黒いぼろのマントをまとった女。
ある日アクセルの村に現れ、山腹にある棘の木のところでベアトリスが話をする。
痩せて異様に背の高い男。頭のてっぺんが見事に禿げているが、耳の周りから黒い毛の房が突き出している。
アクセルとベアトリスが雨宿りのために立ち寄った廃屋にいた。
黒いマントをまとい、鳥を思わせる小さな老婆。なめし皮のような皮膚をした顔、目は深く窪んでいる。
サクソン人の村にいるベアトリスの知り合いの薬師。背すじのしゃんと伸びた背の高い女。
サクソン人の村の村長でかなりの高齢者。村の中で唯一のブリトン人で、妻もサクソン人である。背中はさほど曲がっていないが、首と頭が肩から異様な角度で突き出している。
サクソン人の村にいる古強者の老人。
エドウィンの回想にしか登場しない。
戦場で両脚の機能を失う。
エドウィンに戦士の素質があることを見込んでいた。
サクソン人の村一番の靴屋。満月のたびに発作を起こす。
エドウィンの靴も彼が作ったもの。
修道院の院長。
修道院の修道僧。脚が悪い。
黒いあごひげをたくわえた大柄の修道僧。
痩せて病弱そうなピクト人。
ジョナス神父の指示で、エドウィンの逃走の道案内をした。
顔が煤をぬりたくったように汚れている。
黒っぽい小さな布切れを無数にはぎ合わせて作った服を着ている。
親に忘れられた、2人の弟と暮らす少女。
アクセルとベアトリスにヤギを託した。
山小屋の少女を憐み、雌竜の魔法のことやヤギを独餌にする方法を教えた人物。
アクセルの過去の記憶にある馬に乗った残忍な同僚。その肥満体から放たれる体臭は、馬のそれをも圧倒する。
雌竜クエリグとの戦いのため、アーサー王に選ばれた5人のうちのひとり。
クエリグの尻尾で体を上下真っ二つに割かれ、ガウェインに抱かれて死を迎える。
雌竜クエリグとの戦いのため、アーサー王に選ばれた5人のうちのひとり。
この戦いで、ミラスとビュエルの2人は戦死した。
イシグロ小説の特徴のひとつに「信頼できない語り手」という表現手法があります。
語り手は読者にとっての情報提供者ですが、語り手が見ている世界は必ずしも真実ではありません。
我々読者は、語り手から得られる情報をもとに世界を再構築し、隠された真実や心理を読み解く必要があります。
「忘れられた巨人」の語り手は、4つのパターンがあります。
物語の大半が主人公アクセルを中心とした、このパターンの語り手で記述されています。
アクセルは老齢と忘却の霧のせいで記憶があいまいなため、特に物語の前半はモヤがかかったような感じで進んでいきます。
語り手がエドウィンを中心としたパターンです。
三人称ですが、エドウィンの人格をトレースしたように、口調は子どもっぽくなっています。
エドウィンもまた忘却の霧の影響を受けており、記憶はあいまいになっています。
一人称「わし」のガウェインが内省するようなパートです。
一人称「おれ」の船頭によるパートで、物語の最後の章にのみ登場する語り手となります。
章ごとの語り手をまとめると以下の表のようになります。
章 | アクセル | エドウィン | ガウェイン | 船頭 |
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第1章 | ○ | |||
第2章 | ○ | |||
第3章 | ○ | |||
第4章 | ○ | |||
第5章 | ○ | |||
第6章 | ○ | |||
第7章 | ○ | |||
第8章 | ○ | |||
第9章 | ○ | |||
第10章 | ○ | |||
第11章 | ○ | |||
第12章 | ○ | |||
第13章 | ○ | |||
第14章 | ○ | |||
第15章 | ○ | |||
第16章 | ○ | |||
第17章 | ○ |
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