村上春樹の小説の挫折しない読み方

村上春樹の小説の挫折しない読み方

村上春樹の小説を読んだ方がいいか?と聞かれれば、私は迷わずイエスと答えます

ノーベル賞文学賞の有力候補として毎年注目される、この日本を代表する作家である村上春樹の小説を読まない理由がありません。

しかし、村上春樹の小説は、「嫌い」「難しくて理解できない」という方が少なくないのも事実です。

「読んでみたけどつまらなかった」だと、読書にかけた時間がもったいないですよね?

本記事を読むことで、読書慣れしていない方も村上春樹の小説を楽しめるようになります。

村上春樹の小説の魅力

村上春樹の「一人称単数」っぽいアイキャッチ

皆さんはこれから読もうとする小説に何を期待するでしょうか?

例えば、ミステリー小説なら謎解きや読後の爽快感、恋愛小説なら登場人物への共感や涙するような展開を期待しますよね。

では、これから読もうとする村上春樹の小説に何を期待すればいいでしょうか?

村上春樹の小説は、人や現実生活への深い洞察を独特のやわらかな洗練された文章で表現しており、これを通じて、この世界のとらえ方や自分自身の内面を見つめなおすヒントを与えてくれます

例えば、「嫉妬」についてはこんな表現をしています。

「嫉妬の気持ちというのは、現実的な、客観的な条件みたいなものとはあまり関係ないんじゃないかという気がするんです。つまり恵まれているから誰かに嫉妬しないとか、恵まれていないから嫉妬するとか、そういうことでもないんです。それは肉体における腫瘍みたいに、私たちの知らないところで勝手に生まれて、理屈なんかは抜きで、おかまいなくどんどん広がっていきます。わかっていても押し止めようがないんです。幸福な人に腫瘍が生まれないとか、不幸な人には腫瘍が生まれやすいとか、そういうことってありませんよね。それと同じです。」

「東京奇譚集」P179

嫉妬とはーつくるが夢の中で理解したところではー世界で最も絶望的な牢獄だった。なぜならそれは囚人が自らを閉じ込めた牢獄であるからだ。誰かに力尽くで入れられたわけではない。自らそこに入り、内側から鍵をかけ、その鍵を自ら鉄格子の外に投げ捨てたのだ。

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」P47

いかがでしょうか?
どちらもむずかしい言葉は使わず、嫉妬という感情を比喩(たとえ)で表現しています。

  • 嫉妬は腫瘍のようだ。(直喩、シミリー)
  • 嫉妬は牢獄だ。(隠喩、メタファー

言葉では言い表せないような感情や概念を独特な比喩表現によって言語化し、シンプルかつリズミカルな文体で表現するのが村上春樹の小説の特徴です。

読んだときに自然と想像力を働かせ、新しい自分を発見させてくれるような感覚が得られると思います。

村上春樹の小説が嫌われる理由と3つの心構え

村上春樹の「ねじまき鳥クロニクル」っぽいアイキャッチ

売れているからとにかく読めばおもしろいはずだ、と思って読み始めると挫折するかもしれません。

魅力だけでなく、嫌われる理由をあらかじめ知っておくことが、村上春樹の小説を楽しむための大事なポイントです。

ストーリーが難解で理解できない ⇒ 理解しようとしなくていい

村上春樹の小説を楽しむために、ストーリーを理解することは重要ではありません

物語を読み解こう、というスタンスで作品に向き合うと目的や意味を見つけ出そうとして、逆に迷子になります。

なぜなら、ほとんどの村上春樹の小説は、はっきりとした起承転結やオチ書かれていないからです。

例えば、初期の小説「風の歌を聴け」について村上春樹本人がインタビューで語るところによると、むしろプロットというか展開の因果関係を理解するのは不可能なことのように思われます。

後のインタビューによれば、(中略)また、最初はABCDEという順番で普通に書いたが面白くなかったので、シャッフルしてBDCAEという風に変え、さらにDとAを抜くと何か不思議な動きが出てきて面白くなったとも述べている。

ウィキペディア(Wikipedia)「風の歌を聴け」より

簡潔でユーモアのある文章をひとつひとつ、ただ味わっていくことが大事です。

言い回しがくどいし、結局何が言いたかったのかよく分からない ⇒ 解釈は自由

さきほどの「嫉妬」の例でいくと、「嫉妬は苦しいものだ」とひとこと言えば済むところを「腫瘍」や「牢獄」を持ち出して長々と説明するのがわずらわしいという意見があります。

そして読んだ後、「結局何が言いたかったのかよく分からない」と思うかもしれません。

村上春樹が表現しようとするものは抽象的で観念的ですが、それをどう受けとるかの絶対的な解釈や正解はありません

村上春樹の小説の書評をみると、例えば「羊は悪のメタファー(暗喩、象徴のようなもの)で・・・」みたいな考察や解釈が書かれています。

確かに、作品を読んだ後に他の人がどう感じたのかは気になりますが、そこにとらわれると「自分はそこまで読み解くことができなかった」という難解な印象だけが残ってしまいます。

あまり深読みしようとせず、読んだままを自分なりに感じることを意識しましょう

性描写が苦手

性描写については、作品によって淡白な表現から生々しく濃厚な表現までさまざまです。

村上春樹作品の中でも何度か言及されている「チェーホフの銃」という概念によると、「ストーリーには無用の要素を盛り込んではいけない」ということになり、性描写についても必要だから登場していると言えます。

「チェーホフがこう言っている。物語の中に拳銃が出てきたら、それは発射されなくてはならない、と」「物語の中に、必然性のない小道具は持ち出すなということだよ」

「1Q84 BOOK 2」P33

ただ性描写をどう受け止めるかは生理的な問題でもあります。

苦手な方は読み飛ばすか、どうしても嫌悪感が強いという方は、性描写のない作品を選びましょう

長編小説と短編集の一覧

村上春樹の「1Q84」っぽいアイキャッチ

2021年現在、長編小説14冊と短編集14冊が出版されています。

それぞれ出版年順に一覧にしました。

長編小説(14作品)

出版年作品名
1979年風の歌を聴け
1980年1973年のピンボール
1982年羊をめぐる冒険
1985年世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド
1987年ノルウェイの森
1988年ダンス・ダンス・ダンス
1992年国境の南、太陽の西
1994年ねじまき鳥クロニクル
1999年スプートニクの恋人
2002年海辺のカフカ
2004年アフターダーク
2010年1Q84
2013年色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
2017年騎士団長殺し

短編集(14作品)

出版年作品名
1983年カンガルー日和
1983年中国行きのスロウ・ボート
1984年螢・納屋を焼く・その他の短編
1985年回転木馬のデッド・ヒート
1986年パン屋再襲撃
1990年TVピープル
1996年レキシントンの幽霊
2000年神の子どもたちはみな踊る
2005年象の消滅 短篇選集 1980-1991
2005年東京奇譚集
2006年はじめての文学 村上春樹
2009年めくらやなぎと眠る女
2014年女のいない男たち
2020年一人称単数

最初に読むべきおすすめの作品3選

村上春樹の「ダンスダンスダンス」っぽいアイキャッチ

村上春樹の小説は基本的にそれぞれ独立しているため、決まった順番はなく、どれから読んでも問題ありません

ただし、初期三部作や羊三部作と呼ばれる『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』、そして『ダンス・ダンス・ダンス』はこの順番で読む方が理解しやすいです。

しかし、いきなり長編小説から読もうとするのは、準備運動なしに長距離走をはじめるようなものです。

まずは村上春樹の魅力である独特の世界観や文体に頭を慣らしていくため、ひとつのエピソードが40ページ程度と短く、手軽に読むことができる短編集から入ることをおすすめします。

おすすめ作品その1「東京奇譚集」

東京奇譚集をおオススメする理由は、短編集であること、ストーリーが分かりやすいこと、そして図書館で借りやすいことです。

図書館で本を借りて読む5つのメリット

私が好きなエピソードの「品川猿」が収録されており、魅力の説明で引用した「嫉妬は腫瘍のようだ」という表現も本作品に登場します。

また、発売から15年以上経過しているため、人気のある村上春樹作品のなかでも比較的図書館で借りやすい点もおすすめです。

ちなみに、性描写もありませんので、苦手な方も安心して手にとってください。

  • 偶然の恋人
  • ハナレイ・ベイ
  • どこであれそれが見つかりそうな場所で
  • 日々移動する腎臓のかたちをした石
  • 品川猿

おすすめ作品その2「一人称単数」

一人称単数村上春樹の小説の中では最新作で2020年に出版されています。

こちらも短編集のため最初に読むにはオススメですが、最新作であり出版されてから日が浅いため、図書館では予約待ちが多く借りるのは難しいです。

図書館の予約待ち日数を知る方法を解説!受け取ることができるのは何日後?
  • 石のまくらに
  • クリーム
  • チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ
  • ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles
  • 『ヤクルト・スワローズ詩集』
  • 謝肉祭(Carnaval)
  • 品川猿の告白
  • 一人称単数

おすすめ作品その3「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」

短編集ではなく、長編小説をひとつ挙げるとすれば色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年をおすすめします。

理由は、比較的新しい作品であること、長編小説のなかではコンパクトなボリュームであること、現実世界をベースとしていて読み進めやすいことです。

最初に読むべきではない作品3選

村上春樹の「ダンスダンスダンス」っぽいアイキャッチ2

ここで紹介する作品は、最初に読むことは絶対にさけるべきです。

できれば他の村上春樹の小説をいくつか読んだ後にチャレンジすることをおすすめします。

ノルウェイの森

ノルウェイの森は、村上春樹の小説のなかで最も売れた代表作です。

だからきっとおもしろいはずだ!
というとらえ方でこの作品から入ろうとすると、高い確率で挫折します。

なぜなら、村上春樹の小説のなかでも純文学的な傾向が強く、舞台となっている1970年前後の時代背景や文化に馴染みが薄いと、世界観に入りづらいからです。

風の歌を聴け

村上春樹のデビュー作であり、発売順に読んだ方がいいのかな?

と考えてこの風の歌を聴けから入ると、「何がおもしろいのかよく分からない」という印象を持つ方が少なくありません。

つかみどころのないストーリーとさわやかでおしゃれ感ただようセリフを楽しむには、村上作品に慣れることが求められます。

1Q84

1Q84は単純なページ数だけ見ても、村上春樹の小説のなかで最も長い作品です。

現実とファンタジーが絡みあうように、2つの話がパラレルで進行するスタイルで、謎解き要素が強い作品です。

テンポよく展開する物語に引き込まれますが、やはり謎に対する明確な答えは用意されていません

どう読む解くかは自分の感じ方や解釈次第、という心構えなく読むと、長い割にすっきりしない消化不良のような評価になってしまいます

まとめ

村上春樹の「色彩をA持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」っぽいアイキャッチ

村上春樹の小説は読む価値があります

魅力だけでなく、嫌われる理由と読むにあたっての心構えをしっかりおさえたうえで、有意義な読書時間をお過ごしください。

なぜ、まちの図書館の本棚では人気の本が見つからないのか?

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