『ペスト』は、アルベール・カミュの代表作で、1947年に発表されました。
『異邦人』とともに不条理文学として知られています。
感染症により閉鎖された町を舞台にした小説ですが、新型コロナウィルスの流行によって改めて注目され、文庫本の売り上げが急増するなど、大きな話題となりました。
話題になるだけあって読む価値のある小説ではありますが、読みづらい、挫折した、といった感想もよく見かけます。
なぜなら、登場人物が多く、人物の特徴がわかりにくいからです。
しかも、名前の響きが似ていたり、名前が伏せられていたり、名前がない人物まで登場します。
そこで、この記事では『ペスト』に登場するすべての人物を一覧にまとめました。
目次
主人公の医師。
物語の舞台となるオラン市で診療室を開いている。
貧乏だった過去をもつ。
診察室が入っている建物に、門番のミッシェル氏がいる。
妻と二人暮らしだが、物語の序盤で、遠くの療養所に行く病気の妻を見送る。
タルーが記したリウーの肖像は次のとおり。
一見35歳ぐらい。中背。がっしりした肩つき。ほとんど長方形の顔。まっすぐな暗い目つき、しかし、顎は張っている。たくましい鼻は、形が整っている。ごく短く刈り込んだ、黒い頭髪。口は弓状をなし、その唇は厚く盛り上り、ほとんどいつも固く結ばれている。皮膚は陽にやけ、毛は黒く、そしていつも暗い色の、しかし彼にはよく似合う服を着ているところは、ちょっとシチリアの百姓という風貌である。
カミュ「ペスト」宮崎嶺雄訳,新潮文庫,44ページ
オラン市の閉鎖が解除されるまで生き残る。
終盤でこの記録の語り手であることが明かされる。
もう、医師ベルナール・リウーも、自分がその作者であることを告白していい時だろう。
カミュ「ペスト」宮崎嶺雄訳,新潮文庫,446ページ
がっしりと彫りの深い顔に濃い眉毛を一文字に引いた、姿全体に重々しさのある、まだ若い男。
数週間前にオラン市に来て、中央の大ホテルに住んでいる。
彼の手帳には、「かまえて些末事ばかりをとりあげる方針に従った思われる、きわめて特殊な記録」がつけられている。
ペストから3ヶ月がたった頃、志願の保健隊を組織する。
父親は次席検事。
タルーが17歳になった頃に、父親に誘われて見た裁判で、父親が死刑を求刑していたのを見て強いショックを受け、18歳で家を出る。
父親が他界した後、母親も8年前に他界している。
オラン市で蔓延したペストの最後の犠牲者となる。
同じようにして、彼はタルーの傍で暮してき、そしてタルーは今夜、二人の友情がほんとうに生きられる暇もなかったうちに、死んでしまったのだ。
カミュ「ペスト」宮崎嶺雄訳,新潮文庫,431ページ
パリの新聞記者。
胴が短く、肩は厚く、はっきりした顔つきに、明るく聡明な眼をしている。
アラビア人の生活条件を調査するため、オラン市にやってきた。
タルーと同じホテルに滞在している。
パリに恋人がいる。
自分はこの町には無縁な人間であり、従って自分は特別に検討されるべきとの考えを周囲に訴える。
スペイン内戦を負けた方の側(共和派)で経験している。
コタールの仲介でオラン市から脱出しようとするが、うまくいかないことが続くうちに心境が変化し、オラン市に残ることを決意する。
「そんなことじゃないんです」と、ランベールはいった。「僕はこれまでずっと、自分はこの町には無縁の人間だ、自分には、あなたがたはなんのかかわりもないと、そう思っていました。ところが、現に見たとおりのものを見てしまった今では、もう確かに僕はこの町の人間です、自分でそれを望もうと望むまいと。この事件はわれわれみんなに関係のあることなんです。」
カミュ「ペスト」宮崎嶺雄訳,新潮文庫,307ページ
閉鎖が解除されるまで生き残り、汽車に乗ってやってきた恋人と再会を果たす。
ながらく大動脈狭窄に悩んでいたリウーの患者。
長くたれさがった黄色い口ひげをはやし、肩幅が狭く、手足のやせた50がらみの男。
下の歯は大部分が残っているが、上顎の歯は無くなっている。
外郭区域のフェテルブ街に住んでいる。
モンテリマル生まれ。
生来の世話好きである。
毎晩、本を書くことに没頭している。
22年前に日給62フラン30の市臨時補助吏員として就職した。
採用してくれた局長はグランの昇任を約束してくれたが、以後も臨時の立場は変わっていない。
近所に住むジャーヌと結婚したが、何年か過ぎてジャーヌは家を出ていった。
保健隊において活躍する。
またそれゆえにこそ、これも自然なことであったが、グランという何らヒーロー的なものをもたぬ男が、今ではそれらの保健隊の一種の幹事役のようなものを勤めることになったのである。
カミュ「ペスト」宮崎嶺雄訳,新潮文庫,196ページ
ペストの後半期に感染するが、回復する。
血清を注射してから、リウーがその友に向かって、グランは今晩じゅうもつまいというと、タルーは自分が残っていようといった。リウーはその申し出を受け入れた。
中略
ところが、翌朝リウーが行ってみると、グランは寝台の上にすわって、タルーと話をしていた。熱はなくなっていた。
カミュ「ペスト」宮崎嶺雄訳,新潮文庫,393ページ
博学かつ戦闘的なイエズス会士で、オラン市では宗教に無関心な人々にも尊敬されている存在。
中背でずんぐり。
聴衆の前に無慈悲な真実を語ることを容赦しない。
丸太りの小柄な男。
グランの隣人。
部屋で首を吊って自殺未遂を図る。
表向きは酒とリキュール類の代理販売業者。
ギャング映画を好んで観る。
市門開放の直前に姿を消す。
市門が開放された後に、アパートの部屋から警官をピストルで撃ったことで、警官から軽機関銃で射撃され、部屋から引きづり出される。
リウーよりずっと年輩の老医。
黄ばんだ口髭。
シナで過ごしたことがあり、20年前にパリでペストの症例を見たことがある。
カステル夫人は市閉鎖の2、3日前に近くの町へ出かけていたことで、夫婦は別離状態となる。
カステル夫婦には、疫病による死の恐怖より、別離の苦しみの方が強い。
予審判事。
やせて背が高く、黒い服を着て、堅いカラーをつけている。
頭のまん中が禿げ、左右にふたかたまり灰色の髪の毛が茂っている。
丸くいかつい小さな眼、細い鼻、真一文字の口など、育ちのいい梟(ふくろう)という様子である。
息子フィリップをペストで失い、隔離収容所から退去すると、判事の仕事は休暇にして保健隊に志願する。
ペストの勢いが減退し、市門の閉鎖解除を目前して、運悪く死んでしまう。
彼らはよくよくペストの悪運に見込まれた人々であり、希望のさなかにペストに殺された人々であった。隔離収容所から退去せねばならなかったオトン判事の場合がそれであって、タルーは事実彼について、彼は運が悪かったといったのであるが、しかもそれは判事の死のことを考えていったのか、生のことを考えていったのかわからなかった。
カミュ「ペスト」宮崎嶺雄訳,新潮文庫,398ページ
オトンの息子。
10月下旬にペストに感染する。
カステルの血清がはじめて試される。
血清を接種したことで、他の症例より長く苦しみ、死んでしまう。
フィリップという名前が出てくるのは2回だけ。
『食事中に鼠のことなんか話すんじゃありません、フィリップ。今後、鼠っていう言葉を口に出したら許しませんよ』
カミュ「ペスト」宮崎嶺雄訳,新潮文庫,42ページ
「それでも、まあ」と、しばらくしてから判事はいった。「フィリップはそうひどく苦しみはしなかったでしょうな」
カミュ「ペスト」宮崎嶺雄訳,新潮文庫,357ページ
感染から死ぬまでの重要な場面では、フィリップという名前は巧妙に伏せられている。
リウーの母。名前は出てこない。
黒いやさしい目をした銀髪の小柄な婦人。
療養で留守になる妻に代わってリウーの面倒をみるため、4月18日の朝、リウーの家にやってくる。
リウーの妻で30歳になる。
名前は出てこない。
1年来、病気を患っている。
4月17日12時の汽車に乗って山の療養所に向かう。
オトンの娘でフィリップの姉。
リウーの診察室のあるアパートの門番。
アパートの階段や廊下にあったネズミの死骸に怒りを覚えつつ衝撃を受ける。
ほどなく、リンパ腺の炎症を伴う高熱にうなされ、病院に搬送する途中、救急車の中で息絶える。
グランの元妻。
実にほっそりしている。
父親は線路工夫、母親は家事にかかりっきりでジャーヌはそれを手伝っていた。
グランと結婚した後は、働きながら家庭を支えていたが、貧乏と疲労とグランの沈黙に苦しみ、家を出ていった。
市内で最も有力な医者。
リウーからの相談や保健委員会において、事なかれ主義的な態度をとる。
落ちくぼんでいかつい顔をした年寄りのイスパニア人。
リウーの患者。
鍋いっぱいのエジプトえんどう豆を選り分けるのが日課である。
人生を達観したような言動が印象的。
タルーの部屋から通りを隔てた向かい側に住む老人。
白髪をきれいになでつけ、軍服仕立ての服をきちんといかめしく着込んでいる。
呼び寄せた猫に、狙いを定めて力いっぱい唾を飛ばし、命中すると笑い声を立てる。
コタールに、アルジェで評判になった最近のある逮捕事件(『異邦人』ムルソーの事件)のことについて話をする。
オラン市庁の鼠害対策課長。
リウーが召集を主張した、県庁の保健委員会に出席する。
タルーの記録の中で、車掌の会話に登場する人物。
背の高い黒い口髭をはやした、転轍を担当している男で男声合唱隊に所属していた。
ネズミの一件の後、脇の下にできものができて亡くなった。
コタールが友人だと言った建築家。
タルーが泊まっていたホテルで働く女中の母親。
家族の往診にきたリウーに対し、流行性の熱病だと診断されると病院へ連れ去られてしまう不安から、「どうぞかわいそうだと思って、先生!」と懇願する。
コタールの知り合いの密輸業者。
整った赤焼けのした顔、黒い小さな目、白い葉並み。
30歳くらい。
ランベールのオラン市脱出を1万フランで請け負う。
背が高くがっしりした体。
顔の色はかなり白いほう。茶色の目で、口は固く結ばれ、早口に無駄のない口のきき方をする。
無精髭をはやし、肩幅が途方もなく広く、馬面で、髪の毛の薄い、のっぼのやせ男。
イスパニアなまりがある。
フットボールの選手でポジションはセンター・ハーフである。
ゴンザレスの「友達」で、西口の門を守る4人の衛兵のひとり。
ランベールには、マルセルとルイは兄弟であり、20歳にもなっていないように見えた。
ギターを弾く。
ゴンザレスの「友達」で、西口の門を守る4人の衛兵のひとり。
海軍街のはずれの臨海道路に面している門のそばにある、壁の厚いイスパニア風の小さな家に住んでいる。
引き締まった体つきでまめまめしく、シワのよった褐色の顔に、なかなか綺麗な白髪。
毎朝、ミサに行く。
タルーが滞在していたホテルのホールにいる夜警手。
オトン氏のことが嫌い。
タルーが泊まっていたホテルの支配人。
市の閉鎖によって数少ない宿泊客となったタルーを気にかける。
教会の常連。
パヌルー神父を家に泊める。
パヌルー神父が引っ越してきたとき、老婦人が聖女オディールの予言の功徳をほめたたえたのに対し、パヌルー神父は疲れのせいからいらだちを示したことで、老婦人の敬意を失う。
タルーが17歳の時に傍聴した裁判の刑事被告人。
小柄で、30歳くらいで、貧弱な赤毛の男。
タルーが「男はまるであんまり強い光線におじけ立った梟という様子だった」と表現したところから、「赤毛の梟」と呼称されている。
カミュの小説『ペスト』は、話題になるだけあって、たとえ苦労しても読む価値のある小説です。
読みづらい小説でも、登場人物の特徴をおさえておくことで、理解しやすくなります。
このブログでは、他にも理解しづらい小説の登場人物をわかりやすく解説しています。