ゴーゴリやドストエフスキーなどのロシア文学の小説を読んでいると、こんな表現がよく出てきます。
- 「わたしは九等官です」
- 「あの人は十四等官未亡人だ」
この◯等官という表現を「なんとなく身分を表しているんだろうな」、くらいの感覚で読み飛ばしていませんか?
幕末の小説におきかえると、徒士なのか足軽なのか、白札なのか郷士なのか、のような身分関係を理解していた方が、より世界観を楽しめますよね。
そこでこの記事では、ロシア文学に登場する人物の階級を官等表にまとめました。
ほかの物語の人物と比べることで、より深く小説を味わえると思います。
目次
官等表(露:Табель о рангах、英:The Table of Ranks)は、帝政ロシア時代の1722年に、初代皇帝ピョートル1世が公務員の階級について制定したものです。
軍隊の階級にも対応し、帝政が崩壊する1917年まで続きました。
階級は14段階に分かれており、十四等官がもっとも低く、一等官がもっとも高い階級となります。
少なくとも理論上は、出生や富に関係なく一番下の階級から始まり、功績によって昇進していきます。
十四等官で一代貴族となり、八等官(1845年には五等官に引き上げ)で世襲貴族となることができました。
五等官以上になるには皇帝の承認が必要でした。
等級 | 文官 | 陸軍武官 | 海軍武官 | 宮内官吏 |
---|---|---|---|---|
第一等 | 尚書(大臣) 若しくは実権ある一等枢密議官 | 陸軍元帥 | 海軍総督 | – |
第二等 | 実権ある(現任)枢密議官 | 歩兵大将 騎兵大将 砲兵大将 工兵大将 | 提督 | 侍従長 近衛都督 御猟総官 式部卿 御厩長官 式務卿 |
第三等 | 枢密議官 | 中将 | 副提督 | 膳部総官 御猟官 式部官 御厩官 大彫刻官 |
第四等 | 実権ある(現任)発事官 | 少将 | 小提督 | 侍従 |
第五等 | 発事官 | 参謀官 | – | 膳部官 |
第六等 | 集議官 | 大佐 | 艦長 | 接待官 |
第七等 | 参事官 | 中佐 | 副艦長 | – |
第八等 | 参事官補 | – | – | – |
第九等 | 非役(名義)参事官 | 大尉 | 大尉 | – |
第十等 | 書記官 | 中尉 | – | – |
第十一等 | 廃止 | – | – | – |
第十二等 | 地方書記官 | 少尉 | 士官試補(候補) | – |
第十三等 | 廃止 | – | – | – |
第十四等 | 録事 | 少尉補旗頭(少尉捕) | – | – |
官職の日本語訳:『露国事情』帝室ニ属スル官職より(国立国会図書館)
四等官
五等官
六等官
七等官
八等官
ゴーゴリの小説「鼻」の登場人物で、少佐とも呼ばれている。
八等官といっても学校の免状のお蔭でその官等を獲得したものと、コーカサスあたりで成りあがった者とでは、まるで比べものにはならない。この両者は全然、類を異にしている。学校出の八等官の方は……。だが、このロシアという国は実に奇妙なところで、一人の八等官について何か言おうものなら、それこそ、西はリガから東はカムチャツカの涯に至るまで、八等官という八等官がみな、てっきり自分のことだと思いこんでしまう。いや、これは八等官に限らず、どんな地位官等にある人間でもやはり同じことで。さて、このコワリョーフはコーカサスがえりの八等官であった。それも、この官等についてからまだやっと二年にしかならなかったため、片時もそれを忘れることができず、そればかりか、なおいっそう品位と威厳を添えるため、彼は単に八等官とはけっして名乗らず、常に少佐と自称していた。
ゴーゴリ『鼻』青空文庫
九等官
ゴーゴリの小説「外套」の主人公。
万年九等官の文書係で、年に400ルーブルの俸給にあまんじている。
官等にいたっては(それというのも、わが国では何はさて、官等を第一に御披露しなければならないからであるが)、いわゆる万年九等官というやつで、これは知っての通り嚙みつくこともできない相手をやりこめるというまことにけっこうな習慣を持つ凡百の文士連から存分に愚弄されたり、ひやかされたりしてきた官等である。
ゴーゴリ『外套』青空文庫、1ページ
十四等官
別の小説に出てくる人物の階級と比較することで、時代背景や生活水準の違いなど、新たな発見があるかもしれません。
一覧表は少しづつ追加しています。
ほかにも官等をもつ登場人物をご存知の方は、コメントに書いていただけるとうれしいです。