物語がどういう経過をたどって結末に向かうのか。
これをアタマの中で整理できていると、小説の全体像をしっかり理解することができます。
一方、小説「ペスト」をはじめて読むと、物語の時間経過がよくわからなくなることがあります。
なぜなら、途中から日付の記載があいまいになるからです。
そこで、この記事では小説「ペスト」のできごとを時系列にそって整理しました。
今読んでいる部分が物語全体のどのあたりなのか、迷ったときにこの記事を活用してください。
具体的な時系列を確認する前に、小説「ペスト」の時間経過の3つのポイントを確認しておきましょう。
1940年代を舞台にした物語である
アルベール・カミュの小説『ペスト』は、次の一文ではじまります。
この記録の主題をなす奇異な事件は、194*年、オランに起った。
カミュ「ペスト」宮崎嶺雄訳,新潮文庫,5ページ
この一文から『ペスト』は1940年代のある年に、オランという町を舞台にした小説であることがわかります。
約10ヶ月間の物語である
物語の本編は、1940年代のある年の4月からスタートします。
四月十六日の朝、医師ベルナール・リウーは、診察室から出かけようとして、階段口のまんなかで一匹の死んだ鼠につまずいた。
カミュ「ペスト」宮崎嶺雄訳,新潮文庫,11ページ
やがて市が閉鎖され、翌年の2月に物語が終わります。
つまり、期間にして10ヶ月間のできごとが記述されてるのです。
物語の中盤は時間経過があいまいになる
物語はおおむね時系列順に進行していきます。
最初はていねいに日付が記載されていますが、徐々に日付の記載が無くなっていきます。
「◯月◯日」といった絶対的な日付から、「◯月上旬」や「数日後」といった抽象的で相対的な日付に変わっていくのです。
具体的には、病疫により市門が閉鎖され、開放されるまでの間の日付経過があいまいになります。
病疫の勢いが、人々の日付感覚を狂わせるような錯覚をもたらすのです。
ここからは時系列にそって、できごとを整理していきます。
4月
リウーは診察室の階段で死んだネズミにつまづく。
リウーは12時の汽車で山の療養所に向かう妻を停車場で見送る。
17時、リウーは往診にいこうとしたところ、タルーと言葉をかわす。
朝、リウーは駅で母を迎える。
リウーはメルシエに電話をし、ネズミが巣外で大量に死んでいることに対し、鼠害対策課が乗り出すべきだと訴える。
夕刊紙がネズミの大量死事件を取り上げ、市庁の動向を問題にした。
市庁は鼠害対策課に対し、毎朝明け方に死んだネズミを収拾するよう命令を発した。
ランスドック通信社が、4月25日の1日だけで6,231匹のネズミが収拾され焼き捨てられたと報じた。
ランスドック通信社が、約8,000匹のネズミが収拾されたことを報じた。
ランスドック通信社が、ネズミの大量死がぱったりと止んだことを報じた。
正午、リウーはパヌルー神父に支えられた、具合の悪そうなミッシェルに出会う。
昼食後にグランから電話を受けたリウーは、自殺未遂をはかったコタールを診察する。
リウーは、病床で苦しむミッシェルを診察する。
家に帰ったリウーは、リシャールに電話をする。
ミッシェルはうわごとを言いはじめ、40度の熱を出し、リンパ腺がかたく大きくなる。
ミッシェルは救急車の中で死亡する。
5月
非常な濃霧となる。
リウーはグランの家にいき、警官によるコタールの取り調べに立ち会う。
晩、喘息病みの爺さんの近所で、熱にうなされ吐瀉したものがいた。
リウーは県の医薬品保管所に電話をかけ、「否定的な回答」を得る。
カステルがリウーをたずねてきて、二人は流行病の正体をペストであると認める。
グランがコタールを連れてリウーのところへきて、死亡の統計表を見せ、48時間で11人が死亡していることを伝える。
リウーはカステルと一緒に県庁へいき、保健委員会に出席する。
リウーは会議で、この病毒が阻止されないと2ヶ月以内に全市民の半数が死滅させられるという危険性と予防措置の必要性を訴える。
新聞に、熱病について二、三のことが言及される。
県庁が熱病に対する処置を示したビラを市内に貼り出す。
リウーは診察室に戻り、待っていたグランから、コタールが最近の変化してきた話を聞く。
リウーはコタールを自動車に乗せ市中を走り、コタールは「今必要なのは地震だ」と言う。
リウーは自分の職業を重苦しく感じながら、車で往診にまわる。
夜10時に、この日最後の患者である喘息持ちの爺さんを診察する。
ランドストック通信社は、県知事の措置は平静に迎えられ、早くも30名ばかりの患者が申告された、と報じた。
カステルはリウーに電話をかけてきて、リウーは徹底的な措置が必要であるとリシャールに訴えたことを伝えた。
分館病棟が満員になる。
リウーはワクチンを待ちながら腺腫の切開を続ける。
カステルは図書館で古書を調べた結果、ネズミとノミが病毒を幾何級数的に伝播させると結論づけた。
この4日間で死者は、16名、24名、28名、32名となり、この日は約40名となる。
リウーは知事に電話をかけ、措置が不十分であることを訴える。
血清が飛行便で到着する。
数日の間の死者は10名程度になる。
一日の死者が30名になる。
知事からの公電「ペストチクタルコトヲセンゲンシ シヲヘイサセヨ(ペスト地区たることを宣言し、市を閉鎖せよ)」が届く。
市門が閉鎖され、市外との人の往来、信書の交換が禁止される。
ランベールは2時間の行列を待って、妻に電報を打つ。
ランベールは県の官房長に会い、自分を市の外へ退去させてくれるよう訴えるが、例外は認められず慰められる。
その晩、リウーは妻に電報をうつ。
6月
一週間の死亡者が302名と報道される。
夕方近く、リウーは病院から出たところで、リウーを待っていたランベールと一緒に歩く。
ランベールはリウーに、市を脱出するため病気にかかっていないという証明書を書いてもらいたいと依頼するが、リウーはこれを断る。
一週間の死亡者が321名となる。
一週間の死亡者が345名となる。
町の教会首脳部は、月の末ごろに集団祈祷の週間を催す。
祈祷週間の最後は日曜日で、雨が土砂降りに降っていた。
町の中央聖堂は群衆であふれ、パヌルー神父が演説を行う。
知事は、食糧の補給を制限し、ガソリンを割り当て制とする措置をとった。
パヌルー神父の説教のあった日曜日の翌日。
暑熱と光線の絶えまない波が、日がな一日町に降り注ぐ。
この週の死者が700名近い数になる。
リウーはグランと町の外れを歩いていると、ふらふらして街灯にぶつかり声も立てずに笑っている男を目撃する。
リウーとグランはカフェに入り、グランはアルコールを一気飲みし、小説を書いていることを話す。
グランはリウーを家に招き、書きかけた小説の冒頭を読んで聞かせる。
グランの家から帰るリウーは、町の外へ逃げ出そうとする2人の男を見る。
7月
海水浴は禁止される。
死者数は週毎ではなく日毎に報道されるようになる。
タルーがリウーの診察室をたずね、志願の保健隊のことを提案する。
その会見の後、リウーとタルーは喘息病みの爺さんのところへ行く。
タルーは保健隊の最初の一隊を集める。
タルーは喘息病みの爺さんのところへ行き、喘息病みの爺さんのことを詳細に記録する。
8月
死亡者124名。
ランベールは、緑のペンキ塗りの小さなカフェでガルシアと会う。
ランベールがラウルと会う。
死亡者137名。
ランベールは、スペイン料理屋でラウルにゴンザレスを紹介される。
ランベールはゴンザレスとの待ち合わせ場所に行く。
しかし、目当ての「友達」が現れず、翌日に待ち合わせることにする。
ランベールは戦没記念碑の前で、ゴンザレスとその「友達」のマルセルとルイに会う。
ランベールは、夜11時にホテルのバーでリウーとタルーを迎える。
ランベールは、スペイン料理屋でゴンザレスらを待つが現れず、途方に暮れてホテルに戻る。
ランベールはリウーを訪ねてきて、コタールに会えるよう依頼する。
夜10時ごろ、コタールはリウーの家に行き、タルーから奉仕隊に勧誘される。
タルーが逮捕のことを口にすると、コタールは興奮した後で、もし逮捕されれば禁錮くらいになるであろうことを打ち明ける。
ランベールは、コタールと翌日にカフェで待ち合わせることを約束する。
ランベールはカフェでガルシアと会い、翌々日にラウルと連絡をとらせることにした。
ラウルはゴンザレスと連絡をとる。
ランベールはゴンザレスと昼食をともにし、翌日朝にマルセルとルイの家に行く約束をする。
朝、マルセルとルイは家にいなかったので、翌日正午に高等学校の広場で待ち合わせるよう言いおいた。
午後、ホテルに戻ったランベールはタルーに出会い、タルーとリウーを招待する。
ランベールはリウーとタルーのことを「愛に背を向けたヒロイズムだ」と批判し、リウーは「ヒロイズムの問題ではなく誠実さの問題」で「誠実さとは自分の職務を果たすこと」だと向き合う。
タルーはランベールに、リウーの細君は何百キロか離れた療養所にいることを伝える。
朝早々に、ランベールはリウーに電話をかけ、一緒に働くことを伝える。
9月
正午に、ランベールはゴンザレスと男子高等学校の前でマルセルとルイを待つ。
4人はマルセルとルイの家で食事をする。
ランベールはリウーに、前の晩にペストに感染したと思い込み、町の高い広場から外壁越しに恋人の名前を呼びかけたという突然の発作のことを話した。
リウーはランベールに、「密輸連中と往来すると目立つ」というオトンの忠告を伝える。
ランベールは、脱出に向けてマルセルとルイの家に泊まり込む。
家に帰ったマルセルはランベールに、明日の晩12時に脱出の用意をしておくよう話す。
午後4時、ランベールはリウーに会うため、山の手の病院へ行く。
10月下旬
オトンが息子フィリップに病の兆候を認めたため、リウーを呼ぶ。
フィリップは入院し、オトンは隔離収容所のテントへ、オトン夫人とその娘はホテルへ隔離される。
リウーとカステルとタルーは、朝4時からフィリップのそばに付き添う。
明け方、パヌルー神父がやってくる。
朝7時にグランがやってくる。
さらに明るくなったころにランベールがやってくる。
血清を打ったことでフィリップは苦しみ続け、やがて息絶える。
病室を急ぎ足で後にしようとしたリウーはパヌルー神父に呼び止められ、怒りをぶつける。
大風の晩に、パヌルー神父は2回目の説教をおこなう。
リウーは会衆の中で説教を聞く。
説教が終わり外へ出ようとしたリウーは、年老いた司祭が「パヌルー神父の論文は印刷認可が得られないであろう」こと、若い助祭が「司祭が医者に診察を求めるとしたら、そこには矛盾がある」ことを話しているのを耳にする。
パヌルー神父は、疫病の進展で他の市民がたびたび引っ越しするのと同じように、教会からあてがわれた居室から、教会の常連の老婦人のところへ引っ越した。
晩、床につこうしたパヌルー神父は頭痛と熱を感じた。
パヌルー神父は一晩眠らず過ごし、胸の苦しさに悩まされる。
老婦人が医者を呼ぶことを何度か申し出るが、パヌルー神父はこれを拒む。
朝、老婦人は電話で医者を呼ぶ。
正午やってきて診察したリウーは、ペストの主要な兆候がないが隔離する必要があることを告げる。
病院でもパヌルー神父は全く口をきかず、咳がますますひどくなり、晩になって咳とともに血をはく。
朝、パヌルー神父は死に、「疑わしき症例」と記録される。
11月上旬
ペストの死者数は横ばい状態になる。
リシャールが感染し、亡くなる。
市内では肺ペストが蔓延し始め、従来の線ペストの症例が減少する。
午後、タルーとランベールは、ゴンザレスを連れて、予防隔離の収容所となった市立競技場に行く。
タルーとランベールは収容されていたオトンと会い、フィリップは苦しんだりはしてなかったことを伝える。
ゴンザレスは、競技場の見張り勤務をすることになる。
11月下旬
夜10時、タルーはリウーが喘息病みの爺さんの往診に行くのについていく。
往診のあと、タルーとリウーは灯台が見える静かなテラスで、友情のための時間を持つ。
12月末
手紙には、隔離期間が過ぎたのに当局の間違いで収容所にとどめられていることなどが述べられていた。
オトンがリウーをたずねてきて、判事の仕事は休暇をとって、収容所の事務に志願したいと話す。
ランベールはリウーに、マルセイとルイのおかげで恋人と文通するルートができたことを打ち明け、リウーにもこのルートを使うことをすすめる。
リウーはこのルートを使って妻に手紙を送る。
正午、リウーは、そまつな木彫りのおもちゃが並んでいるショーウィンドウにはりつき、涙を流しているグランを見る。
リウーはグランに近づき、連れて帰ろうとした時、グランは歩道に倒れてしまう。
リウーは、家族のないグランを隔離するのではなく、グランの部屋でタルーと一緒に看病することにする。
グランはリウーに、ひきだしにしまっておいた原稿を読んでくれるよううながす。
リウーが原稿を読んだあと、タルーは原稿を焼き捨てるよう叫ぶ。
朝、リウーがグランのところへ行くと、グランの熱はなくなっていた。
喘息持ちの爺さんは、リウーとタルーに、4月以来となる生きたネズミを見たことを話した。
1月
1月上旬の三週間の間にペストの死者数は連続的に下降する。
オトンがペストで死ぬ。
統計が下降しはじめたこの頃から、タルーの手帳に変化があらわれる。
コタールは自分のアパートに引きこもり始める。
病疫が防止されたものと見なされうるとした県知事告示が出される。
市門閉鎖は2週間、予防措置は1ヶ月続行されることになる。
町の騒ぎが一層激しくにぎやかになったとき、タルーは春以来はじめて猫を見かける。
コタールは行方をくらませる。
コタールに一緒に家へ帰ってくれるよう頼まれたタルーは、コタールの不安に受け答えしながら戸口まで来て握手する。
廊下の暗がりから小役人風の2人の男があわれ、コタールに向かってコタールかどうか尋ねると、コタールは夜の闇に逃げる。
正午に家に帰ったリウーは、出迎えた母からタルーの具合が良くないことを知らされる。
リウーはタルーに血清を注射し、隔離せず母と一緒に看病することを伝える。
晩になって家に帰ったリウーが診たタルーには、線ペストと肺ペスト両方の症候があった。
明け方の病勢弛緩を経て、正午にタルーの熱は絶頂に達し、咳が体を揺さぶり、血を吐きはじめる。
夜、タルーは死んでしまう。
リウーに電報が届き、妻が8日前に死んだことを知らせる。
2月
明け方に市の門が開く。
ランベールは、汽車でやってきた恋人と再会する。
リウーは町のはずれに向かって歩く。
リウーは、グランとコタールが住むアパートの近くでグランと出会う。
アパートではコタールが立てこもり、やがて警官隊に引きづり出される。
リウーは喘息病みの爺さんのところへ往診に行く。
テラスに出たリウーは、この物語を書くことを決心する。
この記事では小説「ペスト」のできごとを時系列にそって整理しました。
今読んでいる部分が物語全体のどのあたりなのか、迷ったときにこの記事を活用してください。
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